« 極東の東京中野の野方でお昼に | トップページ | マッテルゼ、今日も明日も »

彼岸の曲

Duke  数日前の深夜、僕の店には阿佐ヶ谷で料理屋をしているM氏がきておりました。彼はかなりマニアックなジャズファンでもありまして、その独特の風貌にして繊細なロマンティストな一面もあるお方。ちょうどかけていたCDが終ったので、じゃあこのあたりでどうかな、と彼の琴線に触れそうな「 デューク・エリントン&ジョン・コルトレーン 」をチョイス。エリントンが奏でる一曲目、イン・ア・センチメンタル・ムードのピアノのせつないリフが流れ出した瞬間、「なんてものをかけるの!」と嬉しそうなM氏の声が。ほうら、当たった、と一人ほくそ笑む僕でありまして、こういう遊びがとても楽しいのであります。

 そして1時もまわろうとする店内に少し大きめの音量でコルトレーンのサックスが鳴り響き、このゆったりと流れる時間がじつにいい感じでありました。自分の店で、毎日このスピーカーからジャズを聞いているのに、この日のこのアルバムは素晴らしく深い音でエリントンのピアノとコルトレーンのサックスが鳴っているように聴こえます。それはM氏も同じらしく、「いやあ、なんか気持ちのいい音が鳴ってるよねえ」と目を瞑って演奏に浸っておりました。外は小雨で、店の窓から見える人気のない通りは水溜りが街灯で光っており、そして店内はなにかちょと厳かな感じすら漂います。

 「俺さあ、これ、なにか霊的なものを感じるんだよねえ、このイン・ア・センチメンタル・ムードってエリントンの母親が死んだ悲しみから生まれた曲なんだよ。うーん、くるよねえ」とM氏。

 「このコルトレーンとエリントンがやってるこのバージョンだけ、この切ないピアノリフで、他ではこのアレンジ聞いたことないです。このリフは白眉ですよね」と僕。

 するとM氏が「このアルバム、レコードで持ってるんだけどさ、B面の一曲目「マイ・リトル・ブラウン・ブック」、これ俺の彼岸の曲なんだよ」

 「彼岸の曲ですか?じゃあCDかけてみましょうよ」

 そしてイントロが流れ出すと 「これこれ、つまりさあ、俺の葬式にはこれを流してくれって言ってるの。この出だし、なんか朝もやのような雰囲気、あの世に旅立つような感じがするんだよねえ。ああ、いい、いいねえ・・・」

 彼岸の曲ですか、なるほどなんか悲しいというより暖かくしみじみ旅立っていくという感じなんですね、M氏の場合は。そうかあ、ジャズはこういう聴き方もあるわけです。そういえば、僕も葬式にはビルエヴァンスの「ユーマスト・ビリーブ・イン・スプリング」を流してくれなんてカッコつけてた時もありました。もっとカッコつけてた学生時代はマーラーの交響曲第9番の四楽章でと思っていたときもあります(大仰な、赤面)。でも今思うとエヴァンスじゃあ、あまりにも寂しいし孤独すぎてなんか誰にも見取られずにアパートで一人という感じだし、マーラーじゃ天空から馬車と天使が降りてきてという感じで(とくにバーンスタインの演奏で)あまりにゴージャスすぎ。となると、このM氏おすすめの「マイ・リトル・ブラウン・ブック」はとても自然で素朴な感じがいいのでは、なんて思えてしまったのは年のせいなのでありましょうか。

 エリントンのピアノのが響き、コルトレーンがしっとりと歌う。二人はその音に魅了され、時間は静かに流れていく。ジャズと深夜と人気のない通りに降る小雨は人をちょっとセンチメンタルにするようであります。

 

 

« 極東の東京中野の野方でお昼に | トップページ | マッテルゼ、今日も明日も »

ジャズその他音楽」カテゴリの記事

コメント

素敵な小雨の降る夜でしたね。雨ってなんだかセンチメンタルにしてくれます。お客さんが好きだと思う曲をその時いいタイミングで聴かせるなんて、それがジャズのお店のオーナの醍醐味です!実は私も私の葬式に使って欲しい曲があります。もう8年以上も前にイギリスでブームになった女性の5人組です。(スパイスガール)その一人がサッカー選手のベッカムの奥さんです。なんだかその曲を聴くと気持ちがなごむのです。英語の意味が良く理解出来ないので本当は場違いの曲かも知れませんが、その曲を選んだ当人は死んでいるのですから許してもらえるでしょう。笑。

スパイスガールが流行していた頃、僕は香港にいました。ですので彼女たちの曲を聴くと自然とあの当時を思い出します。英国ってノーランズからはじまり、バナナラマ、スパイスガールと周期的に女性グループが売れるのは不思議な現象であります。

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/42971/1771922

この記事へのトラックバック一覧です: 彼岸の曲:

« 極東の東京中野の野方でお昼に | トップページ | マッテルゼ、今日も明日も »

twitter

  • twitter

最近のトラックバック

2015年4月
      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    
無料ブログはココログ